プレーグ・コートの殺人

カー連続読破記録もそろそろ終わりに近い今日このごろ。

HM卿初登場作品。HMがマイクロフト(シャーロック・ホームズの兄)というあだ名をつけられていたというのは、後発の作品には触れられてなかったので初耳。マイクロフトという名前を見たのは小学生以来かも。

いかさま霊媒師の正体をあばこうと調査依頼を友人から受けたとはいえ、プライベートで参加する現職警部というのはいかがなものかと思うが、それがあのマスターズだと不思議と納得する。初めて読んだらきっと違和感あったろうが、後の作品のキャラを見ると、警部としては変わり種だからさもありなん。

密室トリックはちょっとずるい気もするが、一応説明はついている。有名なトリックで、どこかで
聞いたような気もするが、この作品がそうだとは気づかなかった。解説に犯人を特定できるネタバレがあってうっかり読んでしまったが、それがわかっていても犯人はかなり後半にならないとわからなかったし、本質的には関係なかった。

しかし、この物語で一番面白かったのは、ルイス・プレージに関する書簡だろう。ペストが流行した時代、絞刑吏のルイスが細く尖った短剣で猫などの動物を路上で殺す光景や、ペストに感染後にプレーグコートに侵入しようとする様は想像するだけで恐ろしい。

解説者はカー作品のベスト3に「火刑法廷」「曲がった蝶番」「プレーグコートの殺人」を挙げている。カーのベスト作品は人によって意見が分かれるとあるが、確かにそれは言えるかも。「火刑法廷」はともかく、後の作品はちょうど読み終わったばかりなので印象が強いが、そのアドバンテージを入れてもベスト作品かというとうーむという感じ。別につまらなくはないし、論理的には破綻が少ないというのはそうかもしれないが、なんとなく隠れた傑作に置いておいた方がよい気がする。多少話に無理があっても、「赤後家」「三つの棺」「帽子収集狂」の内2つを入れた方がカーらしいような気がする。まだ読み残している作品はたくさんあるので、評価は変動する可能性が高いが。
また、「皇帝のかぎ煙草入れ」はカーとしては異色(話のできが良すぎるという意味で)なので、入れない方がいいだろう。