最近読んだ本

曲った蝶番 (創元推理文庫 118)

曲った蝶番 (創元推理文庫 118)

またも飽きずにカー。これだけ一人の作家の作品を連続で読むのは珍しいのだが、面白いのだから仕方ない。

富豪の領主となったファーンリ卿の前に自分が本物のファーンリ卿と名乗る者が現る。金持ちの主人のそっくりさんが主人の病死後に本人に化けて、家を乗っ取ろうとする話が江戸川乱歩の有名な作品にあったが(天知茂明智小五郎シリーズでは伊東四朗が演じていた)、昔からこういう「王子と乞食」みたいな身分入替的な発想は根強いのか。二人の顔が似ているという描写はなかったと思うが、縁故の人間が絶えたことや少年時代にアメリカに渡って20数年ぶりに戻ってきたことによる面影のなさを根拠にして、話にリアリティをもたせている。

幼少の頃のファーンリ卿に影響を与えた家庭教師のマーリの登場と、二人への真贋クイズ(「ホンモノは誰だ」みたい)が緊張感を与えて面白い。マーリなら実際問題会えばすぐにわかると思うのだが、なかなかどちらが本物か明かさないところが、話を複雑にしている。

真贋がはっきりしない内に、元からいたファーンリ卿が不可解な死をとげる。周りに人が見えない池の前での他殺とも自殺とも言えない不可能な状況でフェル博士お得意の推理が始まる。悪魔崇拝や自動人形などトッピングはあいかわらずだが、あまり本質ではないし、無駄な蘊蓄がないので、飽きることはなかった。トリックはちょっとずるさも否めないが、まあ納得。それよりも、裁判でのマデラインの証言がなかなか面白かった。35歳で独身を続けるマデラインの魅力がこの物語の華となっている。フェル博士が「結婚申込者が万里の長城のように並んでいる」と称したのが、言い得て妙。

後半の土曜ワイド劇場的なメロドラマな展開はちょっとアレだが、大どんでん返しもあり、やはり面白かった。