火刑法廷

火刑法廷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-1)

火刑法廷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-1)

カーにはずれなし。比較的入手しやすくて、既に評価が確立している名作から読んでいるから、当たり前か。

砒素といったら女性が使う毒薬として有名。昔のミステリには砒素を使った女性が毒殺犯の作品がよくあったが、この作品がルーツなのかも。

ゴーダン・クロスというノンフィクションの犯罪小説専門の作家の出版前の原稿を入手する編集者である主人公。女性の毒殺犯についての小説であり、興味をそそられるが、原稿には写真が貼ってあり、妻の顔にそっくりの人物が写っており、驚く。写真には、結婚前の妻の名前と同姓同名のマリー・ドーブリー(ブランヴィリエ侯爵夫人の結婚前の名前ドーブレーと書いてあるサイトもある)と書かれている。

設定が面白すぎる。ある日妻が毒殺魔かもしれないと知った時の恐怖とスリル感はどれだけのことだろう。しかも、19世紀の写真の時と若さも変わらない姿であり、処刑されたはずの伝説の毒殺婦が死から復活したのかと想像力をかき立てる。

密室から犯人が壁となっている扉を通り抜けたり、地下納骨堂に埋葬された棺から死体が消失する不可能犯罪と、読者サービスは満点。

最後のオチは最近の作品でもありがちなオカルト要素があって賛否両論ありそうだが、一応不可能犯罪に対するパズルの解明は別にされているので、殊能将之の作品みたいにちゃぶ台返しをしたくなるような不満点はない。

章の始めに他の関係ない作品の文章の一部を引用する手法は、二階堂など現代の作家もよく使う手法だが、俺はあれがあまり好きでない。読んだことのない作品の引用を読んでも、作者の意図がほとんどわからなくて意味不明だし、読んだことのある作品だと作者の意図が透けて見えて逆にがっかりする。どっちに転んでも面白くないし、作者の自己満足に過ぎないように思う。カーがこれを創めたのかよく知らないが。

特に4部の前の「名高きラ・マンチャドン・キホーテの生涯と行跡」の引用の訳が「〜どうしただ?」「〜でねえか」とか田舎風の訛りの会話になっていて、一瞬脱力してしまう。

まあ作品としての完成度は高いので、そんなに気になったわけではないし、評価は変わらないが。