双面獣事件
- 作者: 二階堂黎人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/12/07
- メディア: 新書
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いつもは文庫落ちを待つのだが、話が魔術王とセットということもあり、新書で購入。魔術王とほぼ連続して読んだが、やたら長くて時間がかかった割にすっきりした読了感もなくがっかり。
江戸川乱歩の「人間豹」みたいな話を書きたかったという筆者のコメントがあるが、どちらかというと綾辻行人の「殺人鬼」に近いイメージ。昔からそういう傾向があったが、近年の蘭子シリーズにはやたらスプラッタ描写が多くて閉口する。映画でもサスペンス要素の強いホラーならまだよいが、ゾンビ映画とか見ても何が面白いのかよくわからない。
素麺獣と某青年の改造シーンまでいくと、荒唐無稽で逆に面白かったが。
今回は魔術王と比較してもミステリとしての謎解きはほとんどなく、その手のカタルシスは全く感じられない。しかし、犯罪を何でも戦争のせいにしてしまうのは疑問。作り手としてはそうすれば楽なのはわかるが。
二階堂が反戦を意識したとは思えないが、戦争の悲惨さを表現して反戦をうたい文句にするのは手垢のついた手法だし、筆者のスタイルとしてはちょっと違うかなと思う。
「スターウォーズ」とか「007」のような娯楽映画を観るくらいなら、「地獄の黙示録」や「フルメタルジャケット」のような戦争映画を観る方が好きだが、かといって戦争映画が好きという程でもない。昔はなんでもベトナム戦争を題材にすればよかったが、今なら湾岸戦争かイラク戦争かってところか。素麺はもちろん第二次世界大戦だし、最近では硫黄島のなんとかという映画もあったりするが、観てないのでノーコメント。
もし戦争を本気でなくそうと思うのなら、戦争の起きた背景を分析して、そこを取り上げないとダメだと思う。そんな映画や小説を作っても売れないから誰もやらないと思うが。一般的に映画や小説が戦争を題材にするのは、別に反戦を訴えたいわけではなく、戦争を悪と位置づければ観客や読者にわかりやすいので、使ったにすぎないと俺は思っている。戦争を動機にしてしまうのはある意味クリエーターの安易な逃げと感じる。他の人がそういう手法を使っても気にならないが、いつも変わった動機やトリックを披露する二階堂のような発想力豊かな作家がそういう安直な手法を採ったことに正直がっかりした。
終わり方をみると、ラビリンスシリーズはまだ続くようだが、ここは一旦リセットして、「シャーロックホームズの帰還」のように、3年間行方不明となっていた蘭子が成長して帰ってきて、依頼者の話だけを聴いて解決するような安楽椅子探偵シリーズになって欲しい。
関係ないが、蘭子には「altern8って女心をちっとも理解してないわね。」と一度言われてみたい。けっしてMではないが。