最近読んだ本

ミミズクとオリーブ (創元推理文庫)

ミミズクとオリーブ (創元推理文庫)

嫁洗い池 (創元推理文庫)

嫁洗い池 (創元推理文庫)

最近憂鬱な事件が多く、気分がすっきりしないことが多いが、精神的な負担が少なく気楽に読めるものはないかと、本屋で創元推理文庫を眺めて、安楽椅子探偵物を探して見つけたのがこれ。


直木賞を獲得した作品や大林監督の映画も観ていないので、作者の名前も初めて知ったような状態。しかし、これが面白い。

小説をなかなか書けなくて、すぐに逃避してしまう意思薄弱な作家の旦那と、香川の郷土料理がうまく八王子の家をめったに離れない奥さんと、事件を毎回持ってくる無神経で豪快な刑事のキャラクターの対比がうまい。


世の中には勘のいい人間とわるい人間がいる。
自分で言うのもなんだが、この奥さんと同様、俺も前者に入ると思う。
若いころは、回りくどいことをしないと理解しない勘が鈍い人間と話すのも面倒で、いきなり結論を単刀直入に言って、面食らったような顔をされたり、信用されないことも多かったが、最近は世の中にはそういう人もいることを理解し、安楽探偵椅子よろしく部下(手下)を使って、十分証拠固めしてから結論を提示したりする処世術を学んだ。勘なので、はずれることももちろんあるが。


真の名探偵は物語の最初で犯人の目星をつけるべきだろう。別に証拠集めを自分でやってもいいし、安楽椅子探偵だけがよいとは思ってないが、ミステリで最後の数頁まで犯人の見当もつかず右往左往する探偵がたまにいるが、そんな奴は名探偵の資格なし。
矢吹カケルの本質直観による現象学的推理は最たるもので、俺はこれが理想と思っている。


主人公の奥さん(探偵)は料理がうまくて、勘がよくて、奥ゆかしい理想の奥さん像であり、男だったら誰もがこういう奥さんをもらいたいと思うだろう。しかし、この本のレビューの中には、奥さんが理想的すぎて逆に尻にしかれるみたいで恐ろしいというような内容の意見もあった。書いたのが女性なので、きっと自分にない能力を持つ同性への嫉妬心と、料理は女性が作るのが当たり前みたいな男尊女卑の考えを感じて、反発したのだろう。

亡くなった祖母(奥さんの伯母さんが同じ性質を持っているのと似ている)も俺以上に勘がよく、母親が働いていたせいで、小さい頃はずっと祖母に育てられていた。祖母は比較的おしゃべりな人で、外の人間とはよくしゃべったが、二人でいるときは俺が寡黙なせいか、あまり話さなかった。でも、テレパシーとまでは言わないが、何もしゃべらなくてもお互いに何を考えているかわかってしまう。何を食べたいと言わなくても、食べたいと思ってくれる料理を作ってくれた。この本の奥さんもそういう能力があるが、現実にそういう人はいるのだ。

母親は逆に勘のわるい人で、たまに実家に帰ると、いちいち夕飯に何を食べるか聞いてきて、うっとおしい。10何年一緒に暮らしていたのに、いまだに俺の好き嫌いを理解していないし。別に、料理を作るのは女性の役目とかそういう考えを持っているわけではないが、実家のある地方は封建的な考えが根強く残っていて、父も祖父もけっして台所に立つことはなかった。


トリックはありきたりで特に新鮮みがあるわけでもないが、この本の良さは、美味しそうな郷土料理を作る性格のよい奥さんと、世間知らずで子供のような旦那(このキャラクターが実はよい)に癒されることだ。

2冊目の解説は喜国雅彦。解説を読んだのが、ちょうど「ウロボロスの純正音律」の読み始めた頃とかぶったので、偶然なキクニつながりにちょっと不思議な気分になった。