三つの棺(多少ネタバレ)

三つの棺 (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 2-3)

三つの棺 (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 2-3)

読者に挑戦的なこの作品が密室トリックの代表といったカーのイメージを強くしてしまった原因だと思う。相変わらずの不可能犯罪。

扉の前の2名以上の監視の中、密室の部屋に入った仮面の男。銃声が聞こえるが、残されたのは撃たれたグリモー教授のみ。窓の外には雪が積もり、屋根にも道路にも足跡なし。もう一つは、人通りのない裏道を歩いていた奇術師の男が銃声とともに突然倒れる。前にいた二人が振り返ると近くに銃声が落ちているが、雪道には足跡なし。しかも、被害者は近距離から背中を撃たれており、自殺の可能性なし。幽霊のように足跡を残さない犯人。

ちょっとシチュエーションを作り過ぎる感があるが、いつもながら面白い。トリックはこれしかないという内容だが、またしても騙される。ヒントは気づいていたが、肝心な部分がわからずに結局解けなかった。カーの作品は話が面白いので、続きを早く読みたい欲求が強く、あまりトリックを考えている余裕がないせいもあるが。

タイトルの舞台からして棺桶から復活するドラキュラ的エピソードなど、「火刑法廷」みたいな怪奇的趣味の内容をもっと想像していたが、どっちかというと現実的な話で拍子抜けした。俺はどっちかというと、現実的なストーリーの方が好みなので好都合だが。冒頭のエピソードで、グリモー教授が幽霊や怪談話をした後、京極堂のように必ず仕掛けをばらすというのが、興味深かった。怪奇的なエッセンスはあくまでトッピングであり、本質的にはカーがやはり解明されるべきロジックを重視していることが確認できる。

物語の後半にフェル博士が始める有名な密室講義。内容は後発の作品によく登場しているので、あまり目新しさは感じなかったが、フェル博士に「自分たちが推理小説の中の登場人物」と言わせてしまうのにはかなり驚いた。メタミステリじゃん。ただ、二階堂黎人がやったみたいにくどくなく、さらっと周りの登場人物は流して話を進めたのはカーのバランス感覚のよさだと思う。

多くの推理小説に影響を与えた作品と言われることにある意味納得した。