帽子収集狂事件

帽子収集狂事件 (創元推理文庫 118-4)

帽子収集狂事件 (創元推理文庫 118-4)

カーに登場する探偵役といえばフェル博士というのは、一度も読んだことないチェスタトンのブラウン神父と同様、子供の頃から名前だけは知っていた。

二階堂黎人の「増加博士と目減卿」を読んで、増加博士のキャラクターはカーのフェル博士を勝手にデフォルメしたパロディと思っていたので、あまりにもそのまんまなんで驚く。

カーネル・サンダースのように眼鏡に太った体型と大声でしゃべる尊大な物言いと動物を愛する愛くるしいキャラクター。これだけでも探偵小説として面白みがあるが、輪をかけて面白いのがその奇抜な設定とトリック。イギリス人の帽子をかぶる習慣は今でもあるのか知らないが、紳士たる者帽子の一つや二つ持っているのが当たり前。その帽子が盗まれて死体にかぶさっていたのだから大変。

霧のTower of Londonで起きた事件で、観光客を足止めして、警部や博士が一人一人の取り調べを始める。このミステリの王道がたまらなく面白い。誰かが推理小説で一番面白いのが容疑者の取り調べシーンと書いていたが、俺もそう思う。アガサクリスティの「オリエント急行殺人事件」の取り調べなど秀逸。

被害者と同じアパートに住む謎の未亡人など、新たな登場人物が続々出てきて、謎が深まる。シェーラ・ビットンのキャラクターが面白い。とにかく余計な描写を排除した読者を楽しませるだけの演出はうますぎる。

久しぶりに犯人もトリックも全く検討もつかなかった。後発の同じようなトリックを使ったミステリは何度も読んでいるはずだが。