鯨統一郎

ここ数年精力的に出版を続ける鯨統一郎。基本的には見つけたら買うようにしていたら、結構たまっていたので、この半年間で続けざまに読んだ。
歴史ミステリをメインにしているが、どれも語り口が軽くて読みやすいので、好んで読んでいる。反面、テーマの割りには尻つぼみ感があって後に残らない欠点もあるが、読んだ後考えさせられる作品は年取ったせいか避ける傾向にあるので、この作風は気に入っている。


全作品にダイイング・メッセージが登場する短編シリーズだが、半任優里警部と南登野(みなとの)洋子刑事、117歳の論語研究家・明丹廷などのギャグとしか思えないネーミングや、ダイビング・メッセージやダイイング・マッサージとか、鯨統一郎得意のふざけたミステリ。南登野のとぼけた会話が笑えるし、軽く読めるし、最近の鯨氏の中では好きな作品。

喜劇ひく悲奇劇 (ハルキ・ノベルス)

喜劇ひく悲奇劇 (ハルキ・ノベルス)

泡坂妻夫の同名タイトルの作品は未読だが、タイトルから回文が話の種なのはわかる。しかし、回文をこれだけ作品に登場させるのはすごい。数えたわけではないが、1頁につき平均2,3個の回文が登場する。ラストは例によって、しょぼい。


「とんち探偵一休さん 金閣寺に密室」の続編のような位置づけの作品。前作の一休さんのキャラと空海のキャラがかぶっているようにも感じるが、平安時代藤原薬子坂上田村麻呂など、まるで本当に見てきたように歴史が語られていくのは見事。


新・世界の七不思議 (創元推理文庫)

新・世界の七不思議 (創元推理文庫)

デビュー作「邪馬台国はどこですか?」の待望の姉妹編。場末のバーで繰り広げられる日本史談義が世界史談義に規模が拡大され、今回はアトランティス、ピラミッド、ナスカの地上絵などの世界の七不思議を解き明かす。例によって、一見荒唐無稽な解釈だが、説得力のある宮田六郎の解釈。高飛車ながら、いつも最後は鼻を明かされてしまう、早乙女静香。タイミングよく料理やカクテルを出すバーテンダーの松永。今回初登場の古代史の有名な教授である片言の日本語を話すジョセフ・ハートマンとキャラクターの会話のやりとりは絶妙。
一休さん」と「空海」などの室町時代の謎解き話を探索する六郎太と静の陰陽師白拍子のコンビは、このシリーズの前世を匂わせていると最近になって気づいた。


すべての美人は名探偵である (カッパノベルス)

すべての美人は名探偵である (カッパノベルス)

それぞれ別の作品に登場した登場人物を再登場させるという森博嗣がやりそうな企画ですが、「邪馬台国はどこですか?」の早乙女静香と「九つの殺人メルヘン」の桜川東子がコンビを組んで、謎の古文書の秘密を探る。魅力あるキャラであることは確かだが、全般的に話が強引すぎて、今回はちょっとはずした感がある。


北京原人の日 (講談社文庫)

北京原人の日 (講談社文庫)

ハードカバーでは読んでなかったが、文庫化されたので読んでみた。失われた北京原人の化石の行方を捜す暗号解読ミステリで、テーマとしては面白いのだが、デビュー直後の作品のせいか登場人物に今ひとつ魅力がなくて、前半はあまりはまれなかった。鯨氏の初期作品は短編の方がよい傾向にあるが、この長編も残念ながら傑作とまでは行かない。